地獄のミュシラン3星

グルノーブルのボザールには、学食なる物が有りませんでしたので、学生は各々自分でサンドウィチを買って食べる人や自宅に戻って昼食を取るなどしていましたが、ボザールの近くにグルノーブル大学の学食もあり非常に安価なフランス料理コースを食べる事ができました。このコース、価格が200~300円位だった記憶があります。ボザールの生活に慣れない私に気を使って、この学食に誘ってくれる友人もいましたが、ここに行く前には必ず覚悟が必要でした。私はここを“地獄のフランス料理”と呼んでいます。味は当然、不味いのですが、その不味さが半端じゃないんです。後、食事のビジュアルも映画の刑務所の食堂そのもので、ふて腐れたおっさんが、皿にシャモジ一杯の得体の知れないヘドロを投げ込み隣のデザートの中にまで、そのヘドロに汚染された事もしばしばありました。
それプラス、ここが私に“地獄のフランス料理”と呼ばすのは、ここで使用される肉なのです。大体、どの肉も何故かちょっと酸っぱいのですが、友人に今日の肉は何と聞くと、“鳩“と窓越しにたむろって居る鳩達を指差します。ヘドロの中に中は殆どレア状態の鮮やかな薄ピンクの肉が今にも鼓動を始め、その振動で周りのヘドロが波打つかの様な幻覚を覚えました。そういったある日、先ほどの鳩より少し濃い目、しかし豚肉より薄めのピンクの肉の日がありました。肉質も鳥のささ身の様に柔らかいのですが、鳥のささ身にしては随分、大きな肉の塊で、おそろおそろ、フォークで突いていると友人が”ウサギ“と私の反応を楽しむかの様に教えてくれました。味は、鳥のささ身その物でしたが、その日のうちにあった出来事が、私に二度とウサギを食べようと思わせなくしました。ちょうどその日の夕方、ジョンルークのクラスのパーフォーマンスの発表が展示室であり。私も一度帰宅してシャワーを浴び普段より少しお洒落をして出かけました。お洒落に時間を掛けすぎたのか、私が着いた時には、もう後半の分野に入っていまして、出来るだけ前方で見ようと空いている椅子を探している時、館内のあちらこちらで悲鳴が起きました。それに釣られてステージを見た瞬間、セーターか何かを絞っている真面目そうな黒縁もメガネを掛けた男性がいました。しかし、そのセーターを絞る時、何かスムーズな動きで無い事でそれがセーターで無い事が解りました。丁度、近くに居た子供を連れた友人の女の子が、私にのそれが、今日”地獄のフランス料理”で食べたウサギだと教えてくれました。私の脳裏にヘドロの中の鮮やかすぎるピンクが一面に広がった瞬間、目の前の暴れもがいていたウサギは、この黒縁メガネの男性の手によって無残にも頭部を体から引き抜き、ズッポ音が出た様な錯覚を覚えさす位に強烈なイメージを私に残しました。それと同時に、あの地獄のフランス料理は私の中で確固たるポジションを獲得し、地獄のミュシラン3星に確定した瞬間でした。

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