アーティストで無い最高のアーティスト

私がアーティストを休止した理由は、前にも書きましたが10年間アートのムーブメントが動かないと感じた事が大前提ですが、その他にももろもろの要因がありました。そういった中で、私の好きなアーティストとイスラエルで出会った事もその大きな要因の1つでした。
そのアーティストの名前はアビタル ゲーバ(Avital Geva)、多分この人の名前を知っている人は日本には殆ど居ないと思います。
この人に会う為に、先に話したイスラエル美術館のキュレーター、サリット シャピーラさんと、テルアビブからタクシーでレバノン国境にある彼のキブツまで行きました。
彼は若い頃、アーティストとして活躍していたそうですが、その後アーティストを休止し、その後、このレバノン国境の辺境の地にあるキブツでグリーンハウス、日本で言うビニールハウスでハウス栽培を遣って生計を建てて暮らしている。との事だけ知らされていました。公道をはずれ、点々とするキブツの村人にそのグリーンハウスの行き方を教えて貰い道なき道をレバノン国境に向かって行くと突然、荒涼とした砂漠の中に巨大なグリーンハウスが宇宙基地の様に見えてきました。
その宇宙基地に近づくとイスラエルの地なのに10数名の黒人の子供達が珍しい物を見る様に私達の乗ったタクシーに集まってきます。一面砂漠の中の宇宙基地と背の低い黒い生物。ここが地球と宇宙の接点なのか?と目を疑う光景でした。
タクシーを降りその黒人の子供達にアビタルは居る?と優しくサリットが聞くと1人の子供がグリーンハウスに隣接する小屋に向かいました。そして一見、見た目はお爺さんの様な、しかし目だけは、瞳の奥に鋭さを持った人がその小屋から出て来て、サリットと懐かしそうに挨拶の抱擁をしていました。この人がアビタル ゲーバです。
お茶も出ず早速、そのグリーンハウスの内部に案内された私は、唖然としばらくしていました。
外は一面に広がる砂漠、それと対照的に内部の床はグリーンハウス一杯一杯の巨大なプール、その中で泳ぐさまざまな魚達、空中には色々な花の段々畑がグリーンハウス中に巡らされ、そのグリーンハウスの一面の壁にはクラブの巨大なDJブースの様なコントロールセンター。そのまさにDJブースに黒人の子供が上りアビタルの指示で私達にシステムを紹介する為にグリーンハウスの機能を操作し始めると、段々畑に上方から水が流れ、おのおのの咲き乱れた鉢から水が点々と下のプールに落ち、いきなりジャングルの様子、その後かすかな音の音楽と共にこの異次元空間に酔いしれていると、突然、DJブースの両サイド上部に取りつけられたジャンボ機の巨大ジェットタービンその物の物体から3-4mはある火柱が水平にゴーと発射。
砂漠の夜は凄く寒いのでこのジェットタービンで温度調節をされるとの事。
魚の糞などを含んだ有機水はポンプで花の段々畑、最上部までくみ上げられ各々の花の鉢に水が行き通る様になっているそうです。
もしかして今ではこの様なグリーンハウスが見られるかも知れませんが、これはすべて彼が考案し作り上げたグリーンハウスだったそうです。
もう15年程前になりますが当時、クラブにもはまっていた私には、黒人の小さな子供がDJ、このグリーンハウスの花々、そして魚達がお客でこの子供の奏でる曲に合わせて微妙に体を振動して隣のメシベをナンパしていた様に感じました。
このひと時の砂漠でのクラブを楽しみ、外に出て砂漠の真ん中に椅子を集めアビタル、サリット、私で色々と話しましたが、サリットはアビタルに出品要請をしているようでした。
しかし、彼は“私はアーティストで無い。”と言い出品要請を断っていましたが、“あなたがアーティストでなくてもこのグリーンハウスがアート作品だ!”とサリット。
“ふむ“アーティストだけがアートを作るわけでは無いと彼女は言っている。
と私は目を覚ましました。
それを聞き彼は折れました。イスラエルビエンナーレへの出品となり、その後、MOCA(カルフォルニア州立美術館)での個展と繋がって行ったのです。
しかし、このMOCAでの出品要請でも問題が起こりました。
彼は12-3人のエチオピア難民の子供達と一緒に働いていまして、この子供達も自分と同じ待遇で全員アーティストとして招待してくれないと遣らないと言うのです。
MOCAは流石に費用面で問題になりかなり考慮していた様子でしたが、最終的にこの黒人の子供達全員をアーティストとして向かえMOCAでグリーンハウスを復元、操作したそうです。
この経過及び、実際の砂漠でのグリーンハウスを見た私にとってアーティストで無い彼が最もアートを愛し、アートの領域を神聖な物として自分の中で確立しているのでは?
アーティストで無い彼が最もアーティストなのでは?
そういう事を自問する機会を、アビタルは私に何も言わず教えてくれました。
アビタル ゲーバは私にとって最高のアーティストです。

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